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2006.03.11

国民保護条例に関する陳情

 3月10日、西宮市議会に「西宮市国民保護協議会条例等に関する陳情」を提出しました。

 当会は、「平和憲法と国際人道法の精神に基づく積極的な平和外交こそが住民の生命と安全を守る」と主張してきました。
 有事法制・「国民保護法」は、戦争をする国づくりに国民を協力させるものであり、現行の地域防災を充実させることのほうが重要であると、西宮市の安全・安心グループとの交渉の場でも訴えてきました。
 3月市議会に先立ち、再度の交渉を申し入れましたが「市議会で忙しい」という理由で、残念ながら話し合いの場を設けることができませんでした。
 その中で、3月議会に、西宮市当局から、「西宮市国民保護協議会条例」及び「西宮市国民保護対策本部及び西宮市緊急対処事態対策本部条例」が提案されました。大変遺憾に思います。

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            西宮市国民保護協議会条例等に関する陳情

【陳情趣旨】
 憲法は、国際平和を追求する立場から、平和主義、武力不行使を貫いています。ジュネーヴ条約第1追加議定書の前文にも紛争を許さない精神が明記されています。住民の平和と安全を守るために、政府の外交努力により武力攻撃の発生を未然に防ぐことが何よりも重要であり、「国民保護計画」を作って、いたずらに国民に緊張と、危機の「啓発」をすることは、戦争に国民が協力する体制をつくるものです。
 以下、具体的な内容に基づいて、「西宮市国民保護協議会条例」及び「西宮市国民保護対策本部及び西宮市緊急対処事態対策本部条例」(以下、「国民保護条例等」という。)の制定に反対します。

 第1に、この「国民保護法」では住民の平和と安全は守れないということです。
 「国民保護法」は、武力攻撃事態対処法を柱とする有事7法のうちの一つとして制定しました。そもそも有事法制の意図するところは、日本本土防衛というより、むしろ政府の一方的な「武力攻撃事態」(予測事態含む)による自衛隊の海外派兵と国外での武力行使にあります。
 「国民保護法」は「国民保護計画」策定にあたって、武力攻撃事態4類型(①着上陸攻撃②ゲリラ・特殊部隊攻撃③弾道ミサイル攻撃④航空機攻撃)と緊急対処事態(人口密集地への攻撃などいわゆるテロ攻撃)を対象としています。ところで、1月31日に消防庁から通知された「市町村国民保護モデル計画」によると、「着上陸攻撃」は「事前の準備が可能であり、国の方針を待って対応」「平素からの避難を想定した対応は定めない」として「着上陸攻撃」にかかるマニュアルは策定しないことされています。また、ミサイル攻撃は「堅牢な屋内・地下室に避難」が主対策であり、結果として緊急対処事態にかかる対策と避難マニュアルが主な内容となっています。これは、「見通しえる将来において、わが国に対する本格的な侵略事態生起の可能性は低下している」(2004年12月新防衛大綱)からも明らかなように、武力攻撃事態の想定が非現実的であることを示しています。
 「市町村国民保護モデル計画」にて主対策とされている「緊急対処事態」はテロ対策です。このテロの危機が声高に叫ばれるようになったのは、米国のアフガニスタン及びイラク攻撃に日本政府が加担し自衛隊を派遣してからです。つまり、罪も無い多くの民間人を虐殺する米国と同じ立場に立ち加担している日本政府の外交政策に起因していることは明らかです。9・11事件の直後に多くの沖縄修学旅行がなぜキャンセルされたのか思い起こせば、米軍とともに行動している危険性に思い至るのではないでしょうか。
 しかも、この「国民保護計画」はテロを未然に防ぐのではなく、起こってからの市民の犠牲を前提とした対処です。「東京都国民保護計画」を定めた東京都参与志方氏は「都には国家中枢(行政中枢・経済中枢・政治中枢)を守る責任がある。テロは、通常予測されたことがない…住民の一番の貢献は逃げることだ」と述べています。
 このことから、未然に市民をテロの危機から守るのは、日本政府の外交政策を転換することが最も現実的かつ効果的であることがよくわかります。
 「兵庫県国民保護計画」についても、市民からの意見によって、修正をされた経過があります。最大の修正点は、計画概要の冒頭に「計画作成にあたっての基本的考え方」という項目が新たに追加され、その第2項目が「国の平和と国民の安全を確保するためには、政府の外交努力により武力攻撃の発生を未然に防ぐことが何よりも重要であり、兵庫県においても、国際平和を追求する立場から、多文化共生の社会作り、草の根の国際交流など様々な取り組みを展開してきている」となっています。
 それに関連して、「無防備地域宣言」については、日本も批准しているジュネーヴ条約第1追加議定書に基づくものであり、被害を未然に防止するという視点からすれば、最高の住民保護計画です。もし国民保護計画をつくるとしたら「無防備地域宣言」を行うことを計画にすべきです。(「無防備地域宣言」をするためには、一定の条件をクリアしなければならないので、宣言をする場合の具体的な実施計画も定めておくことが必要です。)

 第2に、かりに「テロ行為」に対応するとしても、「国民保護計画」を定める必要は無いということです。
 基本的に「テロ行為」は、国際紛争ではなく、国際犯罪の範疇に入るものですので、対応は原則として警察になります。大規模なテロ災害の場合は、災害派遣として自衛隊の出動が要請されることがあるかもしれませんが、自衛隊は要請内容の範囲内の活動に本来なるものです。
 昨年11月6日、兵庫県が主催した「国民保護フォーラム」において、危機管理総合研究所の小川和久所長は、「大災害や大事故は基礎問題、テロや武力攻撃事態は応用問題。基礎問題もしっかりすべき。大災害などから身を守れる仕組みをまず考えるようにすればよい」と提言しています。また、西宮市越木岩自主防災会の大石伸雄顧問も、「地域防災と国民保護は、住民の命を守る点では現場としては同じ。」と述べています。
 かねてより総務省・消防庁が大量殺傷型テロへの対処については、地域の防災組織を活用した「対処計画」がつくられています。テロにしても災害が起こったときの初動体制は地域防災で動くことになります。他都市からの避難民の受け入れも震災などと同じです。基本は地域防災計画であり、地域防災と「国民保護」という2つのシステムを持つために余分な費用をかけるより、地域防災という基礎にこそ力を注ぐべきだと考えます。

 第3に、「国民保護」の訓練をすることによって、訓練への非協力者が明らかになりますが、それは思想チェックにつながる恐れがあります。また、精神障がい者などの人権にも配慮が必要です。
さらに、過敏な危機意識が高まるので、それが在日外国人排斥に向かわないようにする必要があります。そのとき、一方で「テロが怖い」と言い、他方で「外国人は怖くない」と啓発するという矛盾に陥ります。このことからも、仮想敵をつくる「国民保護」の訓練は実施せず、地域防災(大規模災害)の内容で訓練すべきです。

 第4に、1937年に制定された「防空法」と「国民保護法」が酷似しており、国家総動員の戦争体制をつくりあげた戦前と同じ道を歩むことが懸念されるからです。「防空法」は「寧ろ防空演習法案と云ふやうに感じられるのでありますが……この原案で宜しいと云ふことになりまして」(貴族院防空法案特別委員長報告『貴族院議事速記録』28号378頁)と、当初から演習法案でありました。その骨子は「1防空の実施は防空計画に基づくこと、2地方長官、市町村長、特に指定された行政官庁以外の者による防空計画の設定、…4主務大臣の命令・統制下での防空訓練の実施、」というように「国民保護法」と同じです。防空法の言う「民間防空」の目的は、国家体制の保護であって、国民の生命・財産の保護はその反射に過ぎませんでした。当時の指導書には「國民防空は根本に於て、強い國家主義に發足せねばならぬ。即ち國民全靆が國家と運命を共にすると云ふ殉國精神に出發してゐるのでなければならぬ」「國民は一人も残らず、……棄身となつて我が尊い國家を護り通すと云ふ決死の覺悟即ち防空精神を發揮することが何より大切であ(る)」(石井作次郎『実際的防空指導』1942年、80頁)とあります。つまり、防空訓練の狙いは、空襲に対する備えというよりも、むしろ地方機関や市民を効果的に統制し、末端にまで管理を浸透させることに主な狙いがあったのです。「国民保護法」が地域防災計画の充実で対処できることを有事法の一つの法律として全国民を訓練に向かわせるのは、戦前と同様の目的があるように考えられます。

【陳情事項】
 国民保護条例等は、市民の平和と安全に寄与しないので、制定しないでください。
 また、国民保護条例等をつくるとしても、国民保護協議会は幅広い市民の参画を保障し、計画づくりの期限を設けず多様な論議ができる公開の場とし、平和憲法と国際人道法の精神を反映し、人権に最大限配慮したものにしてください。また、新たな対策本部は地域防災の枠内での設置としてください。

                                     2006年3月10日
西宮市議会議長 殿
                        西宮市に平和・無防備条例を実現する会

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